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大阪地方裁判所 昭和37年(行)34号 判決 1963年4月18日

原告 株式会社スタンダード石油大阪発売所

被告 天王寺税務署長

訴訟代理人 山田二郎 外二名

主文

原告の本件訴中金一、八〇〇円の加算税の徴収決定の取消を求める部分を却下する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

原告の求める裁判

「被告が原告に対してなした金二五、四五〇円の揮発油税並びに地方道路税及び金一、八〇〇円の加算税の徴収決定は取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。」

被告の求める裁判

「原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。」

第二原告の主張

一、原告はガソリン重油等石油類の販売を目的とする商人であるが、被告は原告に対し揮発油税法の一部を改正する法律及び地方道路税法の一部を改正する法律(昭和三六年法律第三八号及び同第三九号。以下単に揮発油税法改正法又は地方道路税法改正法と略称する。)による揮発油税及び地方道路税金二五、四五〇円、加算税金一、八〇〇円の徴収決定をなし、原告は、右納税告知書を昭和三六年一〇月二〇日受領した。

二、しかし、右徴収決定は次の点で違法である。

(1)  揮発油税法改正法附則四項(昭和三六年四月一日施行)は、同法施行の際、揮発油を所持する揮発油販売業者で、五キロリツトル以上の揮発油を所持するものに対し、一キロリツトルにつき金二、九〇〇円の揮発油税を課し、右税額が金五八、〇〇〇円以下のときは、昭和三六年四月三〇日限り徴収すること等を定め、地方道路税法改正法附則四項(昭和三六年四月一日施行)は、右揮発油税法改正法附則四項の適用を受ける揮発油には、当該揮発油税額の二九分の五に相当する税額の地方道路税を課する旨定めている。

ところで、右の「揮発油を所持する者」とは、当該揮発油の所有者を意味するものであることは、右改正法附則の規定の趣旨が揮発油の製造業者又は、販売業者がその保有している揮発油について、右改正法の施行に伴つて生ずる販売価格の値上げによる不当利得を収めんことを防止することを目的としてなされた措置であることにかんがみて明らかである。

又、仮に、右の所持が占有を意味するとしても、揮発油製造業者若しくは同販売業者以外の納税義務を有しない者の所有する揮発油を保管、貯蔵その他代理占有する販売業者は、占有者でないから右納税義務はないと解すべきである。

(2)  訴外近鉄タクシー株式会社(以下近鉄タクシーと略称する。)は、大阪市天王寺区上本町九丁目一〇番地の本社兼営業所内に容量一〇、〇〇〇リツトルのガソリン貯蔵タンク並びに計量注油機一基をそれぞれ設備して所有しており、原告は近鉄タクシーから右貯蔵タンク並びに計量注油機を無償で借り受けて右タンクに貯油し原告の計量注油係員二名をして近鉄タクシーの需要に応じて注油販売していた。

したがつて、右タンク内のガソリンは通常は原告の所有で、右タンク並びに計量注油機も原告の占有である。

ところが昭和三六年四月一日の前記改正法施行にともない、揮発油の販売価格がその課税額だけ値上げされるので、同年三月三一日近鉄タクシーから右タンク内の揮発油全部七、六〇〇リツトルを買取りたい旨の申出があり、原告は承諾してこれを売渡し、翌四月一日当時は所有者近鉄タクシーのために右七、六〇〇リツトルを代理占有していた。

(3)  したがつて、(1)に述べたところからして原告は右揮発油につき前記附則四項による納税義務を負担しない。しかるに被告は、原告が右揮発油を前記附則四項に言う「所持」をするものとして本件揮発油税、地方道路税及び加算税の徴収決定をなしたのであるから、右決定は違法である。

三、そこで原告は、昭和三六年一〇月二八日被告に対し再調査請求をなしたが昭和三七年一月二二日棄却され、右決定を同月二五日受領したので、二月二〇日大阪国税局長に再審査請求をなしたが五月一二日請求棄却され右決定を同月一四日受領したので、本訴に及んだ。

第三被告の答弁

一  原告主張の一の事実中、加算税一、八〇〇円を除きその余は認める。

原告主張の一、八〇〇円は加算税ではなく利子税であるがこれが賦課決定をしたことも否認する。揮発油税、地方道路税賦課決定の日は昭和三六年一〇月一一日でありその送達は同月二〇日頃である。

二  本件揮発油税、地方道路税賦課決定にはなんら違法な点はない。原告は、昭和三六年四月一日現在、大阪市天王寺区上本町九丁目一〇番地の二の近鉄タクシーにおいて、原告の管理する揮発油貯蔵タンク内に揮発油七、六〇〇リツトルを現実に所持していた。そこで、右揮発油につき、法定の欠減数量(揮発油税法八条、同法施行令二条により課税標準数量の算出にあたり欠減控除することになつている一〇〇分の一・五にあたる数量)一一四リツトルを控除した課税標準数量七、四八六リツトルに対して被告は揮発油税法改正法附則四項及び地方道路税法改正法附則四項により本件賦課決定をなしたものである。

三  原告主張の三の事実は認める。

しかし、本件決定は適法であるから、原告の主張は失当である。

第四証拠関係<省略>

理由

一  被告が原告に対し、昭和三六年一〇月一一日、金二五、四五〇円の揮発油税及び地方道路税賦課の決定をなし同月二〇日その納税告知書が原告に到達したことは当事者間に争いがない。しかし、被告が一、八〇〇円の加算税(又は利子税)賦課の決定をしたとの原告主張事実については成立に争いのない甲第一号証(領収証書)によつてはこれを認めるに足らず、他にこれを肯定するに足る証拠がない。しからば、右決定の取消を求める本訴請求部分はその対象を欠き不適法として却下を免れない。

二  揮発油税法及び地方道路税法によると、揮発油の製造業者に対し、その製造場から移出した揮発油の数量に応じて課税される(揮発油税法三条、地方道路税法五条)ことになつている。揮発油税法改正法及び地方道路税法改正法の各附則四項が、特に、同法施行期日の昭和三六年四月一日に五キロリツトル以上の揮発油を所持する揮発油販売業者に対し、一キロリツトル当り金二、九〇〇円の揮発油税及び金五〇〇円の地方道路税を課することにしたのは、右各改正法により両税とも右の割合だけ増税されるので、製造業者がその施行前に移出し、製造業者又は販売業者が所持中の揮発油のうち右定量を超えるものにも右増税分に相当する課税をすることにより移出前の製品との間に税負担の公平をはかると共に増税の負担回避を防止するにあると解される。その場合、原告主張のとおり販売業者が既に消費者に販売して所有権も移転し販売業者は単に現実の所持を有するにすぎない揮発油については課税しない取扱いも一理はあるが、抽象的な所有権の帰属により課税の有無を決するのは租税回避や脱税を容易ならしめ善良な納税者との負担の公平を欠くこととなるので、租税技術上現実の所持を課税の基準とすることがより好ましく、前記改正法附則四項の所持も、右の理由から所有権の帰属に関係なく現実の所持を言うものと解するのが相当である。

三  原告がガソリン重油等石油類の販売業者であり、昭和三六年四月一日近鉄タクシー方の原告管理の揮発油貯蔵タンク内に揮発油七、六〇〇リツトルを現実に所持していたことは当事者間に争いがない。しからば右揮発油が原告主張の如く近鉄タクシーの所有に属していたものとしても、原告は右製品につき揮発油税法改正法及び地方道路税法改正法の各附則四項による納税の義務があるものといわなければならない。

四  そうすると、右数量の揮発油に対し法定の控除をなして法令に従つて税額を算出したことが計数上明らかな本件処分には違法な点はないから、本訴のうち、その取消を求める部分(原告は徴収決定の取消を求めるというが、揮発油税法(昭和三二年法律第五五号)に基づく課税処分の取消を求める趣旨と解する)は失当として棄却するべく、加算税の徴収決定の取消を求める部分は不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 前田覚郎 田坂友男 野田殷稔)

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